性感染症

性感染症とは

「性感染症」は、性交やオーラルセックスなどの性的接触によって感染する病気を指す言葉です。かつては性病と呼ばれ、梅毒、淋病、軟性下疳、鼠径リンパ肉芽腫の4種類のみが該当しましたが、現在では分類の方法が変わって病気の種類が増え、「STD(Sexually Transmitted Diseases)」という呼び方も使われるようになりました。性感染症の中には自覚症状が全く出ないものも少なくありませんが、放置していると知らない間に進行し、最悪の場合は不妊の原因になることもあるため注意が必要です。「おりものの量が多い」「おりものが匂う」「お腹が痛い」といった自覚症状があれば保険診療が可能です。感染したことに早い段階で気がついていても、医療機関に行くことをためらっているうちに症状を悪化させてしまうケースも少なくありません。もし何らかの兆候を発見した場合は、恥ずかしがらずに検査を受けて早期発見・早期治療を心がけることが大切です。

クラミジア:日本で最も多いといわれる性感染症

原因となるのは、クラミジア・トラコマティスという細菌に分類される小さな微生物です。感染しても8割は無症状であるため、知らないうちにパートナーに感染させてしまい、次々に感染を広めてしまう危険性があります。男性よりも女性の患者数が多い理由は、女性は男性のように排尿により自然治癒することが少ないためです。体内に入ったクラミジアは、子宮の入り口から上へ上へと感染して卵管からお腹の中へと侵入していきますが、その時点でもおりものの異常や下腹痛、性交痛などの症状がない場合も多くあります。感染が卵管の上皮細胞に達して損傷が起こると、将来腹膜炎や不妊症、子宮外妊娠を引き起こすことが考えられます。性器だけでなく喉にもクラミジアが多く検出されています。抗生物質の服用で治療できます。

梅毒:若い女性の患者が急増中

ここ数年で急速に患者数が増加し、大きな問題となっている性感染症が梅毒です。梅毒トレポネーマと呼ばれる螺旋状の菌が病原菌にあたります。感染すると長い時間をかけて病状が進行していき、最悪の場合は死に至ることもある怖い病気です。効果的な治療薬が発見されて以来、輸血で感染する症例以外には日本では減っていましたが、近年特に若い女性の患者数が爆発的に増えています。感染力はHIV(エイズ)よりも強いといわれ、またHIVと重複感染しやすいという報告もあります。治療には抗生剤が使われます。

その他の感染症

淋病

淋病は淋菌が原因となって発症する性感染症です。性器のほか、男女共に喉、眼、直腸などに感染します。女性は自覚症状がない場合が多く、感染を放置しておくと体内に感染が拡大し、子宮外妊娠や不妊の原因となります。男性の場合は生殖器の炎症に繋がると無精子症になる恐れもあります。特に喉への感染は男女ともにほとんど症状がないため、クラミジアと同様にお互いに移し合うこと(ピンポン感染)も少なくありません。治療には注射や内服薬が使われます。

HIV(エイズ)

HIVは正確にはウイルスの名前です。エイズとは後天性免疫不全症候群のことで、 HIVの感染によって免疫力の弱くなった人が、健康な状態であればかかりにくいようなさまざまな病気に感染することをいいます。HIVの感染源となるものには血液、精液、膣分泌液、母乳があり、性行為以外の日常生活ではまず感染の心配はありません。現在は残念ながらHIVを完全に体内から排除する治療法はありませんが、 抗HIV薬を使用することによってウイルスの増殖を抑えることができます。

B型肝炎・C型肝炎

B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)に感染して起こる病気です。いずれも血液や唾液などの体液を介して感染し、性行為のほかタトゥーやピアスの針、注射針の使い回しなどが原因になることもあります。特にB型肝炎では性行為での感染が多く見られ、発病すると体のだるさ、吐き気、頭痛、黄疸などの症状が出ます。自覚症状がないうちに治る人も多いですが、慢性肝炎に移行するケースもあります。C型肝炎は慢性化する率が高く、放置していると肝硬変・肝がんへと進行する恐れがあります。慢性肝炎まで進行した場合は抗ウイルス薬を使った治療法が用いられます。

トリコモナス

トリコモナスは、トリコモナス原虫という微生物に感染して起こります。女性が感染すると尿道や膣に炎症が起きて強いかゆみ、痛みを感じたり、匂いの強い泡だったようなおりものが見られたりします。男性の場合は自覚症状がないことがほとんどです。抗原虫剤の服用や膣剤の使用で治療を行います。

性器ヘルペス

性器ヘルペスはヘルペスウィルスの感染によって起こる病気です。感染すると男女とも性器に小さな水泡が多数でき、痛みとかゆみが続きますが、症状が出ない人も少なくありません。一度感染するとウイルスを体から完全に取り除くことはできず、体調不良、疲労、ストレスなどが原因で再発することが多く見られます。治療には抗ウイルス剤が使用されます。

尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが原因となって起こる病気です。性器や肛門のまわりに大小のイボができますが、かゆみや痛みを感じることは少なく、放置していると次第に増えていきます。電気メスによる焼却や、軟膏の塗布によって治療します。